第4回特別展 (平成15年7月19日~9月7日まで)
「木の絵のナイショばなし」を開催して




展示内容

 今回の展示の目標のひとつに、あたらしい来館者の層を広げたい、という思いがあります。以前から、社会科や歴史にあまり興味のない方々の中には、「幕末と明治の博物館」という名称によって、いっそう固いイメージをお持ちの方もいらっしゃる、という感覚が心にひっかかっていました。そんな方々に「行ってみたいな」と興味を感じていただける展示を今年はしてみたい…そう思っておりました。
  しかし、この展示にあたっては、とても迷いを感じました。今回の展示には、当館のテーマからかけはなれた、今までとは全く違った展示である必要があるからです。「地元」に密着した展示、あるいは、歴史をテーマに当館のオリジナル性を活かした展示を毎年大切にしてきた気持ちが、なかなか抜けきれずにいたのも確かです。しかし、この要素すべてに取り組み、今回の展示案を考えるのは、不可能なことです。
  考えを原点に戻し、今までの展示形式では挑戦できなかったことを重点に構想を練る決心をし、今回の展示に取り組むことになりました。
  その結果、「インパクトのある展示」がキーワードとなりました。この「インパクト」という言葉には、普段の生活で人々が接することの少ない新しい感覚を博物館で楽しんでいただきたい、という気持ちが含まれています。
  独自の技法で「木の絵」を制作されていた深作修一氏にご協力をいただき、今回の「インパクトある展示」──「木の絵のナイショばなし展」が実現したのです。



それでは、展示作品についてご説明いたします。
深作氏の作品には2つの技法があります。

板絵:
  1つ目の「板絵」とは、深作氏が名づけたオリジナルの技法による作品です。さまざまな性格や色合いを持った多くの木の種類から、絵のイメージに合う材料の木を選びだし、5ミリの厚さに整え、まず中心部分から電動イトノコギリで切断し、すき間のない様に合わせて絵を広げていき、一枚の絵が完成します。

 
板絵 「ため息の橋」294ピースで構成)
使用木材:セン、ローズウッド、コクタン
ミズキ、ケヤキ、ゼブラウッド、タモ、
サクラ、エンジュ、イチイ、キエンジュ など

板絵 「清長浮世絵一部分から」
71ピースで構成)
使用木材:ケヤキ、サクラ、セン、
イチイ、ミズキ、コクタン、
キエンジュ、ゼブラウッド など


ウッドバーニング:

  そして、もう1つが「ウッドバーニング」と呼ばれる技法で、専用の温度調節可能なペンを用いて板を焦がして、その濃淡により立体的な絵を描きます。その作業は、とても根気が必要でデリケートなものです。


ウッドバーニング 「WHALE TAIL」


展示概要

 今回、展示会場は新館エントランスホール、別館企画展示室1・2の2ヶ所に分散いたしました
  会場1である新館エントランスホールには、羽がはばたくようにつくられた鳥(サギとカモメ)のモビール11体を天井から吊り下げ、子供たちが手に届く高さにあわせて、自由に触れて遊べるようにしました。またヒノキや杉の切り株を置き「年輪あてクイズ」として木の香りとぬくもりを感じていただくコーナーもつくりました。

別館展示室である企画展示室1・2室を会場2とし、

  1. 板絵の説明と展示
  2. 板絵ができるまでの工程
  3. ウッドバーニングの説明と展示
  4. さまざまな木の表情(木の色の種類や特性等を説明)コーナー

と大きくわけて4つに展示しました。


展示を終えて

 今回の展示は、当初の目標どおり客層のリニューアルに成功した、ということが嬉しい成果です。
  特に、女性のお客様が多くみられた印象があります。主婦や学生、そして家族連れの方々と、いままでの展示では、あまりみられなかった雰囲気を展示室に感じました。また、意識的に「お客様との触れ合い」を大切にした結果、博物館に対し開かれた印象を持たれたという、有難いお客様の意見を直接お伺いできたのも、今回の展示から生まれた良い結果であったと思います。
  「お客様との触れ合い」という点では、当館ではじめて[木のおもちゃをつくろう!]教室と題し、工作教室を実施しました。夏休みの土・日曜日のうち4日間、午前と午後の内容をかえて計8回の教室を実施。多くの方々にご参加いただき大変有意義な時間がもてました。


  やはり、博物館のお客様と館職員が触れ合う時間・機会は大切です。お客様の声を直接きき、お子さんたちの笑顔をみることで、当博物館がこの先何を求められているのか、体感することができました。

  しかし、反省点もあります。歴史を説明する常設展示から、急に美術展示に移行するという展示内容の変化、また歴史博物館の性格上、工作教室を実施したことによりお子さんたちに「歴史」と「美術」の混同があったのではないか、という心配も残りました。また、教育普及の立場で考えてみると、力不足の点があります。この経験を活かし、改善に挑戦していくことが、今後の新たな目標となります。

 博物館は学ぶ場所であると共に、新しい発見や感動がみつけられる場所です。このことを忘れず、また、当館でしか出来ないオリジナル性を大切にしていくよう心がけながら、今後も有意義な展示を、試行錯誤をしながらみつけていきます。いろいろと「新しい挑戦」をしながら、当館ならではの理想的な展示を目指していきます。

 最後になりましたが、今回の展示構想に快くつきあってくださり、すばらしい作品の数々で人々の心を魅了した深作修一氏に、感謝の言葉を申し上げます。
  深作氏は着々と自分の世界を広げつつあります。詳しくご説明できないのが残念ですが、素晴らしい「木の絵」の世界を皆様に披露される機会が、ますます増えていくことと思います。
今後の深作氏のご活躍を楽しみにしております。


作家プロフィール:

  深作 修一
(ふかさくしゅういち)
1949年 ひたちなか市(旧那珂湊市)生まれ
 
  1968年 県立那珂湊水産高等学校卒業
海運会社に入社、外国航路の商船に乗務員として勤務
趣味で帆船模型の制作を始める
 
1987年 茨城県水戸市に木製品専門店「木れんが」(www.mokurenga.com)開業、制作活動に入る
 
現在 ひたちなか市在住、54歳 (H16現在)